大判例

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大阪高等裁判所 平成5年(行コ)18号 判決 1994年8月31日

控訴人

近畿システム管理株式会社

右代表者代表取締役

片山省三

右訴訟代理人弁護士

万代彰郎

被控訴人

大阪府地方労働委員会

右代表者会長

由良数馬

右訴訟代理人弁護士

河合徹子

右指定代理人

坂井照夫

中谷英明

田村幸靖

橋本潤一郎

被控訴人補助参加人

全国一般労働組合大阪府本部

右代表者執行委員長

岡野修

被控訴人補助参加人

近畿システム管理従業員組合

右代表者執行委員長

安村照雄

被控訴人補助参加人

安村照雄

被控訴人補助参加人ら訴訟代理人弁護士

河村武信

斉藤真行

出田健一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  当事者の申立

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が平成元年(不)第四号事件について、平成二年四月二七日付でなした命令を取り消す。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人及び被控訴人補助参加人ら

主文同旨

二  事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり当審における新たな主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  当審における控訴人の新たな主張

原審裁判所は、平成五年二月二六日付で「救済命令主文第1項に従え」との緊急命令を出した。そこで、控訴人は、右救済命令に従うこととし、控訴人の定年者再雇用制度内規によれば再雇用期間は一年であるので、安村に対し、一年間のバックペイの提供をするとともに、就労については、既に右一年が経過していることから、救済命令の履行方法として四日間の就労を受入れる旨を通告した。しかし、安村はこれに応じなかったから、同人には再雇用を希望する意思がないものと認められる。従って、本件救済命令は右事情の変更により取り消されるべきである。

2  当審における控訴人の新たな主張に対する被控訴人補助参加人らの答弁

控訴人の安村に対する右通告内容は、バックペイは一年分しか支払わず、就労は四日間しか認めないというものであり、右バックペイについては明らかに救済命令の主文1項の文言に反し、四日間しか就労させないというのは前記内規四条の明文に反し、いずれも原状の回復を命じた救済命令の主文1項の趣旨に反するものである。従って、事情変更を理由とする控訴人の前記主張は失当である。

三  証拠

証拠関係は、原審及び当審訴訟記録中の各証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

四  争点に対する判断

争点に対する当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 判断」欄に説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の訂正

(一)  原判決四枚目裏末行から同五枚目表初行にかけての「右救済命令は」の次に「、正常な労使関係秩序の迅速な回復・確保を目的とするもので、不当労働行為によって生じた状態を事実上是正するにすぎないものであるから、使用者の行為の法律的効果を判断したり、」を加え、同六枚目表七行目から八行目にかけての「考えられるのでは、なぜか急に」を「考えられるのでは』とか『なぜか急に」と改め、同八枚目表四行目の「七、」を削除する。

(二)  同九枚目表末行から同裏初行にかけての「あること」から同行の「できない)、」までを次のとおり改める。

「あり、右事実は、通勤費の過大請求及びキセル乗車疑惑が安村不再雇用の理由として、後からこじつけたものではないかとの疑念を抱かせる。控訴人は、救済命令手続前に右理由を明示しなかった理由として、これを明示することがいたずらに混乱を招くからであると主張するが、前判示の事実及び(証拠略)によると、控訴人が安村に対し、昭和六三年一二月一二日付文書で定年に達する旨の通知をしたのに対し、組合は、同月二〇日付抗議要求書(<証拠略>)を控訴人に送付して、右通知は組合の弱体化を狙うものとして抗議し、平成元年一月九日には組合員に対し「委員長解雇に対する組合見解」と題するビラを配布して、控訴人が組合の弱体化を狙っていると宣伝し、同月一一日付内容証明郵便で、控訴人に対し、安村の不再雇用は不当労働行為であると抗議し、同月一七日には右問題で団体交渉を申し入れ、同月二一日に開催された団体交渉では右問題を巡って激しいやり取りがなされた事実が認められ、右事実によれば、当時から安村の不再雇用が不当労働行為であるとして労使間で大問題になっていたのであるから、控訴人が、右不再雇用に正当な理由があると考えていながら、これを積極的に説明しないとは考え難いのであって、控訴人の右主張は採用できない。」

(三)  同九枚目裏八行目冒頭から同一〇行目末尾までを次のとおり改める。

「三 控訴人は、嘱託再雇用期間は一年間であるが、本件救済命令は実質上右期間を超える再雇用を命じていることに帰するから不当である旨主張するところ、なるほど被控訴人が、控訴人に対し、安村を嘱託社員として取り扱うことを命ずる内容の本件救済命令を発した時期は、安村の定年後一年三か月以上経過していたことが認められる。

しかしながら、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、本件救済手続においては、嘱託再雇用はあくまで控訴人の自由な裁量でなしているものと主張し、前記内規の存在を主張せず、これを証拠としても提出せず、まして、その期間が一年間と定められている旨の主張もせず、本訴において始めてこれらの主張立証をしたことが認められ、右事実によれば控訴人の右主張は信義に反するものであり、そのことをひとまず置いても、被控訴人は、救済命令として、労働者個人に対する侵害に基づく個人的被害を救済するという観点からだけでなく、あわせて組合活動一般に対する侵害の面をも考慮し、このような侵害状態を除去、是正して法の所期する正常な集団的労使関係を回復確保するという観点から、必要、適切な措置を命ずることができるのであるから、本件救済命令が、右趣旨に鑑み、その裁量を逸脱、濫用したものと解することはできず、控訴人の右主張は理由がない。」

2  当審における新たな主張についての判断

(一)  控訴人は、原判決言渡後、安村に再雇用に応じる意思がないことが判明したから、事情変更を理由として本件救済命令は取り消されるべきであると主張するが、救済命令取消訴訟における違法判断は、処分時を基準に判断されるべきであると解せられるから、控訴人が主張する右事由は違法判断の基準とすることができない。

よって、控訴人の当審における新主張はそれ自体で失当である。

(二)  なお、違法判断の基準時を判決時と考えてみても、次のとおり、控訴人の右主張は採用できない。

すなわち、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 被控訴人補助参加人らは、原審裁判所が平成五年三月一日、原判決の言渡と併せて緊急命令の決定の告知をなした翌日から連日のように控訴人に対し、平成元年一月一〇日から安村を嘱託従業員として就労させるまでの間の賃金、一時金相当額及びこれに年五分を乗じた金員の支払と、安村を直ちに嘱託従業員として就労させることを求めた。

(2) これに対し、控訴人は、再雇用期間が平成元年一月一〇日から一年間であるとの見地から、バックペイは一年分のみ支払う、就労は四日間のみでその間研修を行う旨回答した。

(3) しかし、被控訴人補助参加人らは、控訴人の右回答は、バックペイについては、救済命令の主文1項の文言に明らかに反し、四日間しか就労させないことは、控訴人の定年者再雇用制度内規四条の明文に反し、いずれも原状の回復を命じた救済命令の主文1項の趣旨に反するものであるとして、右回答による就労等を拒否した。

右事実によれば、控訴人は、救済命令に従うこととし、安村に対しバックペイの支払と就労を受入れる旨通告したと主張するが、その内容は再雇用期間が一年であるとの見地から、バックペイは平成元年一月一〇日から一年分のみ、就労は四日間のみとするもので、右バックペイについては、緊急命令が従うように命じた被控訴人の平成二年四月二七日付救済命令の主文1項の文言に明らかに反するものであることは明らかである。従って、安村が救済命令のとおりの履行を求めて、控訴人の右通告を拒否したことをもって安村に再雇用を希望する意思がなくなったものとは認められないので、この点についての控訴人の主張は採用できない。

五  結論

よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中紀行 裁判官 横山敏夫 裁判官 井戸謙一)

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